サース通信年4回発行のサース通信から毎号の特集記事のみを抜粋しています。
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[特集] 地域のなかで工事施工者とのネットワークづくりをすすめています! 障害を持つ方の希望を活かして改装した賃貸住宅が誕生 10:00
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     2002年9月、SAHS事務局の近くにお住まいの会員の方から、お姉さまが所有するアパートの一室を貸し出すにあたって、「できれば改装前に借り手を見つけ、その方の要望をかなえる形で改装したい。せっかくだから不動産屋さんではなかなか貸してもらえないような方にお貸ししたい」とのご相談を受けました。


    ■改装前に入居者が決まったことで双方にメリット

     SAHSでは「NPO法人 自立の家をつくる会」のグループホームづくり支援活動を通して、障害を持つ方の住まいの状況について以前より問題を感じていましたので、早速、同会へ希望者がいないかお尋ねしました。このご縁で、自立の家をつくる会の理事をされている方が入居することになりました。
     改装前に入居者が決まったことから、借り手側・貸し手側の両方に大きなメリットがありました。貸し手側からみると、空き室の期間が短い、入居者の希望にそった改装をするので無駄がない、など。借り手側からは、住まい方にあわせた改装をしてもらえるので使い勝手がよい、インテリアに自分の好みが反映できる、などです。
     今回の事例では、ユニットバスの取り替え工事をするかしないかで変わる賃貸料を比較して選択できたり、コンセントの数や位置の指定、壁クロスの選択、車いすで移動しやすいスロープの角度や幅などについて打ち合わせをしながら、きめ細かく工事をすることができました。


    ■地域のなかで工事施工者とのネットワークを作る

     このアパートの改装にはもうひとつ、新しい試みが盛り込まれました。SAHSでは以前より、住まいのトラブルなどのご相談が寄せられたとき、修繕工事や改装工事を丁寧にしっかりと施工してもらえる近くの業者さんとのネットワーク作りを考えていました。なぜなら、実際に工事をする手がなければ、いくら相談をいただいても根本的な解決にはならないからです。
     今回、アパートの改装工事は世田谷区で活動する「NPO法人 セーフティーリビング」に依頼しました。このNPOは建築業関係者の集まりで、「やはり地域のことは地域のなかで解決しよう」という目的のもと、住まい手側に立った姿勢で活動しています。
     この工事に際しては、小規模ながら初回ということもあって、何度もセーフティーリビング事務局、工務店、SAHSの三者が打ち合わせをし、それぞれの役割を確認しあいながら進めました。
     そこで、今回はこの事例をケーススタディとして検証しながら、地域のなかで活動するNPOのめざす方向と課題を探ってみたいと思います。


    入居者の条件に合わせて行った今回の改装工事の事例を通じて、近くの建築業者のNPO法人とパートナーシップを組んで、地域で有効な活動を拡げていくにはどんなことが求められているのか、またどんな課題があるのか、を考えてみたいと思います。

    そこで、アパート大家さんの妹Aさん、入居者のBさん(脳性マヒで外出時には電動車いすを使用)、NPO法人セーフティーリビング事務局の北川さん、工事担当の伊部工務店社長の伊部さんに集まってもらい、今回の工事について話しあっていただきました。


    <座談会>

    SAHS井上(司会) Bさんが入居されてから3ヶ月ほどたちました。そこで、関係された皆さんにお集まりいただき、今回の改装工事のことや、お部屋の貸し借りについての感想など、もうちょっとこうしたほうがいいという改善点をうかがえればと思っています。最初にAさんに質問なのですが、なぜ不動産屋さんに頼まず、SAHSにお問い合わせいただいたのですか?


    ■部屋が借りにくい障害者の方に

    Aさん 私は精神障害を持っている方々の支援をしている「さくら会」に関わっていて、そのような方のお住まいの問題にも関心があるのですが、以前より井上さんから身体障害者の方々もアパートが見つけにくく、地域で自立するのが難しいことを聞いていたので、もしお役に立つなら…と思いました。
    井上 私たちも「NPO法人 自立の家をつくる会」から身体障害者の入居の難しさを常々聞いていましたので、こういった機会にはぜひご紹介したいと思っていました。ところでAさんは、部屋をBさんに貸すことになったとき、知り合いの方から何かアドバイスされたそうですね。
    Aさん 「障害者の方は火事などが心配だからやめたほうがいい」と…。人望があり影響力もある方の言葉でしたので、とても残念に思いました。
    井上 1999年に自立の家をつくる会が行った「不動産取引業者に対する実態調査」*1でも同じような結果でしたね。さてBさん、ここに引っ越されるまではどちらにお住まいでしたか?
    Bさん 世田谷区内の梅ヶ丘にある光明養護学校を卒業してから3年ほど、静岡の自立生活訓練施設の寮にいました。200人ほどの大型施設です。戻ってからは世田谷区の親元から授産所に通っていましたが、27歳のときアパートが見つかって、ここの近くで一人暮らしを始めました。その後は世田谷区弦巻に引っ越して6年間暮らしました。
    井上 それはアパートだったんですか?
    Bさん ええ、木造アパート2階建ての1階です。昭和30年ごろ建った古い建物で2Kでした。雨漏りもしてました。おまけにお風呂が階段下だったので、入り口のドアが半分くらいしかなくて入りづらいし、中も狭かった…。


    ■住み心地と家賃を比べて借り主が選ぶ

    井上 それで家賃はおいくらだったんですか?
    Bさん 月6万円です。
    Aさん ここは家賃7万5000円ですが、最初ユニットバスを取り替えるかどうか、だいぶ考えたんです。それならいっそのこと、取り替える場合と取り替えない場合でお家賃がどれだけ違うかを算出して、どちらがいいかBさんに決めてもらおうと。ユニットバスを取り替えなければ、7万円でもよかったんですけどね。
    井上 それに、最初はユニットバスの入り口に段差があったのと、給湯器が浴室の中にあったので湯船が狭かったですよね。施工をお願いした伊部さんに、ここはだいぶご苦労いただきました。
    伊部さん そうでしたね。アパートがプレファブなので、古いユニットバスをはずすまで内部がよくわからず、段差がどれだけ解消できるか心配でした。
    Aさん 結果的にはとてもよくなりました。Bさん、いかがですか?
    Bさん 入り口の段差が低くなり、中も広くなったので介助者とも入りやすくて、とてもいいです。もう少し窓が大きいといいのだけど。
    伊部さん 窓は前のままなので…。窓を大きくすると、外壁まで補修が必要になってしまうんです。
    Aさん そう、改装費用はこれが限度でした。
    井上 見積書*2に計上された項目以外にも、塗装とかクロス張りの下地など、ずいぶんサービスしてもらったような気がしますが(笑)…。


    ■地域にこだわって、よい工事をなるべく安く

    北川さん 私たちは「よい工事をなるべく安く」をモットーにしています。工事額の多少にかかわらず、困ったときできるだけ早くかけつけるには、地域で仕事をしている業者さんがいい。現場に往復する時間や費用を考えたとき、遠方だとやはり割高になりますから。
    井上 それが北川さんの「NPO法人 セーフティーリビング」が地域にこだわる理由の一つなんですね。今回の工事については、どのように評価されていますか?
    北川さん 私たちは世田谷区内の約6000の業者が集まる団体(東京土建)から立ち上げたNPOですが、例えば介護保険利用のスロープ設置、手すり付けなどの工事だと、仕事が大工さんだけの工事になってしまいます。ですから、今回のようにいろいろな業種の職人さんと関われるような工事はよかったと思います。
    伊部さん 工務店の側からも、このようなNPOが建主さんとの間で調整していただけると、安心して仕事ができますね。
    井上 お願いするほうからみると、どの工務店に頼むかで技術の差がないのか気になりますが…。
    北川さん そうですね、施工レベルにはほとんど違いはないと思います。それよりも手すりを付けたりするような工事だと、利用者に対してきめ細かい配慮が不可欠で、施工レベルというよりむしろこういった工事に対する配慮や意識の違いのほうが大きいと思います。そのため、ケースワーカーや介護事業所、保健福祉課のスタッフの方々と一緒に研修会などを開催して、勉強もしています。


    ■入居者が決まっているからできること

    井上 それはいいことですね。利用者に対する配慮や工事に対する意識の違いは、やはり工事の成果に反映されるものだと思います。その点でも、入居者があらかじめ決まっていると、目的がはっきりしているのでムダが少ないですね。これは入居されたBさんがいちばん恩恵を受けたのではないかと思いますが(笑)、いかがでしょうか?
    Bさん ええ、入居前に部屋の中を見せてもらい、僕の生活スタイルに合わせてコンセント位置などを変えてもらったので助かってます。玄関の外に電動車いすのバッテリーを充電するためのコンセントがほしかったのですが、これもかなえてもらいました。
    井上 それも入居者があらかじめ決まっていたためですね。壁のクロスもBさんに選んでいただいたし、入り口スロープの傾斜もBさんの車いすに合わせることができました。
    Aさん 借りていただく方になるべく住みやすいように便利にと考えてのことですが、実際の住み心地とはいかがですか?
    Bさん 部屋の間取りは6畳と4.5畳で、改装前と同じなのですが、それぞれに入り口があるので、介助者が泊まるときもお互いに気兼ねなく休めて、気が楽ですよ。
    Bさんの介助者 本当にそうですね。長時間一緒にいて逃げ場がないのは、お互いの精神状態によくないですから…(笑)。
    井上 その他に不都合なところはありませんか?
    Bさん 日当たりはとてもいいのですが、南側道路の向いにある3階建てマンションの玄関からの視線が気になるのと、台所に棚を置いているので、洗面台が使えなくなっているんです。
    井上 それは大変…。今後は入居後のこと、カーテンや家具の配置などについても、アドバイスをさせていただきたいと思います。


    ■細かい見積書を交わして施工を明快に

    井上 それでは最後になりますが、今回の事例を通して、このような連携をもっと進めていくためには、お互いにどんなことが重要だと思われますか?
    Aさん 私の感想を言いますと、セーフティーリビングさんの役割がもうひとつわからない感じがしました。もう少し積極的にアピールされてもいいのではないですか?
    北川さん 私たちの活動を広く知っていただくためにメイン20社で受注委員会を作り、さらに積極的な活動をしていきたいと思っているんです。
    井上 関わる者の責任として、セーフティーリビングさんは今回の工事以外でもきちんとした工事発注書・請書*3を取り交わして、明快な形で施工されました。これについてAさんは、依頼者としていかがでしたか?
    Aさん 注文者、セーフティーリビング、SAHSが記名した契約書ですね。これはとても安心でした。
    井上 これからも、小さな工事でも同じようにする、ということでどうでしょうか?
    北川さん そうしたいと思います。
    井上 活動をもっと皆さんに知っていただくために、パンフレットを作るとよいのではないですか。また簡単な住まいの補修の講習会など、ご一緒に開催してみませんか?
    北川さん ええ、いろいろな形で協力しあっていきたいと思います。
    井上 貴重なご意見ありがとうございました。今後ともこれを生かして、住み慣れた地域に住み続けられるために地域の力を集めながら、住まいの問題に取り組んでいきたいと思います。

    (まとめ=井上 文)
    | サース通信07号/2003年6月 | - | - | posted by news-npo-sahs -
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